Greeting
ごあいさつ

名古屋学芸大学
ヒューマンケア学部長
篠田 晃

ヒューマンケア学部はヒューマンをケアするとはどういうことかを考える人間科学の場であり、その発達過程での心身の保健や教育について実学を通して学ぶ場であります。私達は遺伝子などの素因を持って生まれ、自然や家庭環境、教育・社会環境の狭間で成長し、自らのケアと周囲の人や社会に支えられたケアの中で生きています。
ケアという言葉は広い意味で解釈されますが、よく比較されて使われる言葉に、「キュア」や「介護」という言葉があります。「キュア」は医療の文脈で病気の治癒を目指す言葉として使われ、「介護」は、例えば足が不自由な人達に、「松葉杖を使う」「車椅子を使う」「義足を装着する」、施設に「手すりをつける」「バリアフリーにする」など、失った機能を代替し、不利益を被らないような環境提供をする文脈で使われます。他方、「ケア」はこれ等に加えて、「デイケア」、「緩和ケア」、「終末期ケア・ターミナルケア」など、回復が困難な難病や認知症や癌など不治の病と共に生活している方々について使われます。すなわち、「キュア」と「介護」は失われた機能に注目し、これを回復させ、機能を補完して代替することを目指しています。「ケア」の本質はむしろ残された機能や残された命に着目し、これらを活かして、失くした機能や障害や病がもたらす不安を凌駕し、その人なりの幸せや生き甲斐を見出して、充実した人生が手に入れられるようサポートすることにあります。
考えてみれば、私たちもパーフェクトではなく、弱いところや不得意なところに多少とも劣等感を抱えて生きています。勿論、人並みのところも優れたところも、気づかないだけであるでしょう。得意なところを伸ばし、鍛え、劣等感を凌駕し、今ここを大切にして、幸せを信じて生きていくことは人生の鍵に思えます。「ケア」は単に病気の方への言葉ではありません。老齢期を迎えて、機能が衰え始める高齢者の方々へのケアについては広く言われます。人生折り返しのミッドライフから壮年の方々にだって人生は厳しいものです。これが本当の自分の人生なのだろうかなどとアイデンティティに苦しみ、薄まってしまった自分を求めて悩むこともしばしばです。また生理周期、結婚、妊娠、子育ての特有なステージに密接に関わる女性の方々やジェンダーのアイデンティティ課題を抱える方々にはケアという言葉はデリケートな響きをもたらすでしょう。そして生物学的人間形成と心身発達の初期段階にある乳幼児期から就学前や学童期にかけての子どもたち、心身の変革的展開プロセスにある思春期の若者達にとっては、ケアという言葉は性格形成や人格形成、人間の絆形成や社会適応性を左右する重大な意味をなします。ヒューマンケアは世代を超えた「社会が抱える人間の普遍的課題」と言えるのです。
この新たな分野に、ヒューマンケア学部は、まずは子どもの体と心の発達・成長を理解し、心身ケアや保育や教育を通じた子どものケアについての教育・研究に着手いたしました。子どもたちの不完全なところばかりに注目するのではなく、個性を活かし、得意を強化し、自ら困難を凌駕できる柔軟で強靭な心身形成を導く、そうしたケアができる人材を育成したいと思っています。そして悩みながらも自己実現と社会貢献の両立を目指し、その喜びを感じられる若者をサポートしたいと考えています。
ヒューマンケア学部は、実践と学術的知の体系を通して人生全般にわたるこの分野の開拓に向けた挑戦の歩みを始めています。アカデミアの心を醸造して、そこから湧き出る「人材育成」と「研究活動」、そして「社会還元・貢献・実装化」の流れを大切にし、ヒューマンケアに寄与する有形無形のプロダクトを生み出して行きたいと考えています。















